卒業論文・修士論文の概要 2015年度

修士論文

中尾 篤之 統計手法を活用した最適化手法によるリチウムイオン二次電池の最適化
リチウムイオン二次電池はその優れた特性から、モバイルデバイスや自動車・飛行機等さまざまな用途に用いられている。リチウムイオン二次電池の設計においては、用途に応じて定められる電池の要求特性に対応するように、材料、その加工法、寸法、モジュールの構成等の設計変数を最適化する必要がある。しかし、このように多数ある設計変数の値の組み合わせは膨大なものとなり、試行錯誤による十分な最適化は難しい。電池開発のコスト削減のために、本研究では統計手法とシミュレーションを用いることを試みた。シミュレーションを行うことにより、実際に電池を作成することなく電池の特性を知ることができるため、大幅な開発コストの削減が可能になる。また、得られたシミュレーション結果を統計手法により解析することによって、無駄なシミュレーションを減らすことが期待できる。今回はガウシアンプロセスという回帰手法を用いて、ある設計変数の条件における特性値が現在得られている特性の最適値をどの程度上回るかという向上幅の期待値をシミュレーションを行う前に推算した。そして、その向上幅が大きい条件において優先してシミュレーションを行うことのよって、少ないシミュレーション数でのリチウムイオン二次電池の設計変数の最適化に成功した。また、複数の電池の特性を同時に考慮する場合や、複数のシミュレーションを並列に行うといった条件にも対応できるように手法を改良し、多様な条件で最適化が行えることを確認した。
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卒業論文

 

小俣 真吾 MBRにおける多様な条件下での膜抵抗予測手法の開発
MBR(Membrane bioreactor、膜分離活性汚泥法)は好気性微生物による汚水中の有機物の生分解と膜濾過による固液分離を組み合わせた技術である。MBRは従来の重力沈殿と比較して省スペースという利点があるが、活性汚泥やコロイドなどが膜細孔や膜表面へ付着する現象であるファウリングが課題となっている。ファウリングが進行すると必要な膜差圧(TMP, transmembrane pressure)が上昇し、運転コストの増大を招く。ファウリングへの対策として薬品による膜の洗浄が行われているが薬品の準備には時間を要し、かつファウリングの進行に応じて適切なタイミングで行う必要があるので将来の膜抵抗を統計モデルによって長期的に予測する試みが行われている。しかし統計モデルによる予測を行う場合には長期的な運転データが必要であり、予測対象期間の運転条件が既存の運転条件と類似していなければ予測が困難である。そこで本研究ではそのような場合に精度良く将来の膜抵抗を予測するため、予測対象以外のMBRで測定されたデータを用いて統計モデルを構築する手法を提案した。予測精度を向上させるために膜抵抗の時間的推移に着目し、予測対象データと膜抵抗の時間的推移が高いデータを抽出してモデル構築を行った。実際のMBRデータを用いたケーススタディの結果からは、提案手法を用いたほうが予測対象MBRのデータのみを用いてモデリングを行った場合よりも精度良く予測できることが確認された。
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木倉 悠一郎 ニューラルネットワークを用いた任意の溶媒・溶質に対する溶解度予測モデルの構築
プロセス設計・材料設計において、溶解度は非常に重要な物性である。例えば医薬品設計においては、人体への吸収されやすさという観点から、水溶解度を基に医薬品の原料となるシード化合物を選定する。シード化合物の候補は大量に存在し、その全てを合成し溶解度を測定することは事実上困難であるため、合成をせずに溶解度を予測することが出来る計算モデルが必要となる。既往の手法では精度が低いこと、予測可能な化合物に制限があること、予測に非常に時間がかかることなどの問題点が存在した。先行研究では、化合物の構造と物性値の関係を統計的に扱うQSPRと呼ばれる手法により、任意の溶媒・溶質に適応可能な予測モデル構築手法を提案したが、予測精度が十分ではなく、また、既存の化学的理論に基いた予測方法ではなく、予測結果の化学的解釈が困難であるという問題点が存在した。本研究では以上の問題点を克服するためにニューラルネットワークを利用した溶解度予測モデル構築手法を提案した。ニューラルネットワークは動物の脳神経網を模倣した計算モデルである。複雑なタスクにも適応できる高い自由度を特徴とすることから、近年、画像認識や自然言語処理など人間に比べ計算モデルが不得意としてきた分野において、様々な実績を上げている。また、学習後のネットワーク構造を解析することで、データ内の潜在的な規則や構造を解析する研究も行われている。本研究では、溶液中の分子間相互作用を模倣したネットワーク構造を利用して回帰・識別予測を行った。これにより、予測に必要な情報のみを抽出した上で予測を行うため予測精度が向上する。2成分系の溶解度データを用いて検証を行い、先行研究に比べ予測精度が優れていることを確認した。また、構築されたモデルの解析を行い、既存の化学的知見をモデルが統計的に獲得できていることを確認した。
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羽田 英寛 ソフトセンサーの新規評価指標の提案
化学プラントの運用に当たっては、プロセス中の変数の値を監視することが重要となってくる。変数の中には連続的な測定が困難な変数もあるが、そのような変数の値を連続的に推定する手法として数値モデルによる変数推定手法であるソフトセンサーが挙げられる。ソフトセンサーを利用する際にはモデルの予測精度が重要な意味を持つ。現在、モデルの予測制度の評価指標としてはr^2(決定係数)やRMSE(root mean squared error)などが主に用いられているが、これらの指標ではモデルによる予測の時間的なずれが考慮されていないという問題がある。本研究では、モデルによる予測と実際の値の時間のずれの影響を考慮したソフトセンサーの評価指標を提案した。提案指標では、予測値に対応する実測値を時間のずれについて考慮して選択し、それらについて時間のずれと値のずれをそれぞれ考慮して評価を行った。シミュレーションデータを用いて指標の検証を行ったところ、提案指標によって選択されたモデルを用いることで既存の指標で選択されたモデルを用いた場合より効率的なプロセス制御が可能であることが確認された。
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前田 巌 活性を考慮した化学空間およびタンパク質空間の可視化
化合物とタンパク質との相互作用(compound-protein interaction)を体系的に理解することは、医薬品開発の分野にとって重要な課題である。その際、実験により全ての化合物とタンパク質の組の活性を調べることは非現実的であるため、活性既知の組み合わせから活性予測モデルを構築し、活性情報の存在しない化学構造、タンパク質を含む、活性未知の組み合わせを予測することが行われている。しかし、活性予測モデルが存在してもその逆解析は難しく、目標とする活性値から化学構造を求めるのは困難である、医薬品開発においては副作用を考慮する必要があり、複数のタンパク質に対しての活性を同時に評価する必要がある、といった理由から、単純な活性のモデリングでは薬物設計の効率化は実現できない。そこで本研究では、化学構造探索を効率化する手段として化学空間とタンパク質空間の可視化に着目した。可視化により化学空間、およびそれらに対応した活性分布を把握することにより、活性値の目標を満たす化学構造の特徴を得ることができ、効率的な化学構造探索が実現できる。また、タンパク質空間を化学空間と同時に可視化することで、任意のタンパク質に対する化学構造の活性分布を得ることが可能になり、複数のタンパク質に対する活性を考慮した化学構造の探索が可能となる。本研究では、化学空間およびタンパク質空間を同時に可視化する手法として、教師あり次元削減手法であるCPNN(counterpropagation neural networks)を発展させた多入力CPNNを開発した。多入力CPNNでは、化学構造およびタンパク質それぞれについて入力マップが作成され、2つのマップの座標の組と活性値が対応づけられることで、化学空間、タンパク質空間の分布を考慮した活性の可視化が実現される。GVKデータベースに対するケーススタディを行い、化学空間、タンパク質空間を精度良く可視化できていること、さらに可視化結果を活用し効率的な化学構造探索が行えることを確認した。
visualization
渡邉 拓朗 過去の運転データを利用した多入力多出力プロセス制御手法の開発
プロセス産業では品質改善や生産性向上のために迅速かつ安定なプロセス制御が求められている。しかし既存の制御手法は最適化が困難であり、多くのプロセスが非効率的に運転されている。そのような非効率的な運転のデータを利用してプロセス制御を効率化するため、木村らはソフトセンサーとその逆解析を利用したInverse soft sensor based feed forward (ISFF)制御法を開発した。ISFFは過去の運転データを基に制御変数yと操作変数U、その他のプロセス変数の間の関係を示すソフトセンサーおよびUの時間変化のひな型を構築し、これらを用いて操作を決定する。連続槽型反応器におけるケーススタディにて、ISFFにより効率的な設定値変更が可能であることが確認されている。しかしISFFは多入力多出力(MIMO)プロセスに対応していない。現実のプロセスは一般にMIMOであるため、現時点ではISFFは非実用的な手法である。そこで本研究ではISFFをMIMOプロセスの制御に拡張した。MIMOプロセスでは制御変数yが複数となり、その全ての制御性能のトレードオフを考慮して操作を決定する必要がある。評価すべき指標の数が増大することで最適化が困難となることが考えられるため、複数のyの制御を総合的に評価する少数の指標を定義し、その指標を最適化することで操作を決定した。またUの候補探索の際にモデル構築に用いたデータとの類似度が高い候補のみを評価対象とすることで、ソフトセンサーの適用範囲を直接考慮した。提案手法の有効性を検証するため、2入力2出力の蒸留塔制御に拡張したISFFを適用し、PI制御と比較して効率的な設定値変更を達成できることを確認した。
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