卒業論文・修士論文の概要 2009年度

修士論文

青木 宏 バーチャルライブラリ構築のためのドラッグライクネス評価指標の開発
医 薬品開発には多くの時間や費用がかかるため、開発プロセスの効率化が望まれている。プロセスの効率化のためには、プロセスの初期段階であるリード探索段 階で、優れたリード化合物を得ることが重要である。そこでリード探索手法として、以下に示す探索プロセスを提案している。まず、多数の構造をコンピュータ 上に仮想的に生成し、生成した構造のドラッグライクネス(吸収、分配、代謝、排泄などの特性)評価を行い、ドラッグライクライブラリの構築を行なう。さら に、ドッキング評価、実際に合成しターゲットタンパクに対する活性の評価などを行い、高い評価を得た化合物をリード化合物とする。本研究では、このプロセ スにおける重要度の高いドラッグライクネス評価モデルを、統計的な手法を用いて構築し、さらに構築したモデルを用いてドラッグライクライブラリの構築を行 なった。モデル構築は、半教師あり学習法であるself trainingを用いて行った。構築したモデルを用いて、医薬品、非医薬品それぞれ50個からなるテストデータに対して予測を行ったところ、このモデル の正解率は66%であり、ある程度の識別能力があるモデルであることが確認された。このモデルの正解率は、優れたモデルの構築が可能な SVM(support vector machine)によって構築されたモデルと比較して5%高く、構築されたモデルの優位性が示せたと言える。さらに、網羅的に生成した構造群に対して構築 したモデルを適用し、ドラッグライクライブラリを構築した。構築したライブラリの中には実際に医薬品とよく似た構造が多数含まれている事を確認した。
 aoki_m
光山 倫央 ケモインフォマティックスを用いたオーファン受容体のリガンド探索手法の提案
GPCR(G タンパク質共役受容体)は現在臨床で用いられている薬物の約5割の標的となっているともいわれ、医薬品開発において大変重要なタンパク質と なっている。しかし、GPCRにはリガンドが未知のオーファンGPCRと呼ばれるタンパク質がいまだに数多く存在する。もしオーファンGPCRのリガンド が判明すれば、これまで未知であった生理現象が解明される可能性があるだけでなく、それらのGPCRが創薬の新規ターゲットにもなりうると考えられ、意義 は大変大きい。しかし、これまでに効率的なオーファンGPCRリガンド探索手法は考案されていなかった。そこで本研究ではケモインフォマティックスを用い た効率的なオーファンGPCRのリガンド探索手法の開発を行った。まず、リガンド既知のGPCRとそのリガンドの活性データを用いて、オーファンGPCR の1種であるTAAR2の活性値予測モデルを構築した。次に、化合物ライブラリから収集した化学構造群に対して、活性予測モデルを適用し、全ての候補構造 の活性値を予測した。そして、予測された活性値が高いものを最終的にTAAR2のリガンド候補として提案した。本手法を用いることで、TAAR2以外に も、多くのオーファンGPCRのリガンドを発見することが期待される。
 koyama_m
宮尾 知幸 効率的な分子設計のためのInverse-QSPR/QSARを利用した構造生成システムの開発
化 学の分野においては、特定の性質を示す化合物を効率よく設計する手法の開発が望まれている。そこで本研究では、QSPR/QSARモデルの逆解析によっ て、目的の物性・活性を示すと考えられる化学構造を網羅的に提案する手法の開発を行った。まず、学習データの化学構造を構造記述子によって表現し、最小二 乗法による線型重回帰分析によるQSPR/QSARモデルの構築を行う。次に、linear Gaussian modelsの枠組みを応用することで、目的変数の値を所与とした際の構造記述子の確率密度分布を導出する。そして、導出された確率密度分布と、モデルの 適用範囲を評価する事前確率分布を考慮し、目的の性質を持つと期待される構造記述子の領域を選定する。最後に、構造ジェネレータ MATETE(Molecular generATor for ExhausTive Enumeration)を用いて、その領域に存在する構造を網羅的に構築し、提案構造とする。ケーススタディとして、沸点を目的物性としたQSPRへの 適用を行い、本手法が効率的に分子構造を提案可能であることを示した。
 miyao_m

卒業論文

影山 直樹 定量的予測モデルとその信頼性に基づく実験水準決定手法の提案
工 業製品が目的の物性を持つようにするためには、反応温度などの製造パラメータを適切に設定する必要がある。しかし、候補として設定可能なパラメータの組 み合わせは膨大な数に上るため、全てを実験により検証することは現実的ではない。そこで、既知データに対し統計的な解析を行い、パラメータから物性を予測 するモデルを構築する。ただし、モデル構築の際の学習が不十分であれば予測値の不確実性が大きくなり、予測値が信頼できなくなってしまう。この場合モデル により多くの情報を取り入れることを考慮した候補選択を行い、その実験結果を得ることで効率よくモデルを改良できる。 本研究では候補ごとの不確実性を予測誤差の確率分布、つまり“ぶれ”の幅として表し、これを利用して目的の物性領域内に真の値が存在する確率を算出する。 ここで、この確率を候補選択の評価値として用いると、ぶれが小さく、かつ目的領域に近い予測値を示す候補が優先的に選択される。またこのような候補が存在 しない場合はぶれの大きな候補が選択され、積極的なモデル改良が図られる。このように状況に応じて選択する候補を変えることで、少ない実験回数でのパラ メータ最適化を行う。 また、数値実験および実際のフィルム製造データに対し本手法を適用し、その有用性を確認した。
 kageyama_b
山下 洋輔 果物の非破壊内部品質検査手法の確立
食 品の産地偽装事件などを受けて、消費者の食の安全に対する関心が高まる一方、オートメーション化が進んだ食品産業の出荷工場では、商品の品質を速やかに 検査することが求められている。特に果物においては、目視や手作業による検査が主流であり、その自動化・効率化が望まれている。そこで本研究では、近赤外 スペクトルを用いて果物の内部品質を非破壊、非接触で、かつ迅速に推定することが可能な手法の開発を目的とした。果物について測定された近赤外スペクトル を説明変数、推定を行う内部品質を目的変数として統計的なモデルを構築することで、目的の達成を目指した。ケーススタディとしてりんごを対象とし、本研究 室で開発されたGAWLS(Genetic Algorithm-based WaveLength Selection)法によって糖度の予測を行った結果、予測的説明分散0.7以上の良好な回帰モデルが得られた。また、GAWLS法をクラス分類へと応 用する手法を提案し、りんごの蜜や褐変に対して適用した結果、予測正解率90%以上のモデルが得られた。これらの結果より、近赤外スペクトルを用いること で、果物の内部品質を迅速かつ高精度に予測可能であることが確認された。
 yamashita_b